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ハンガー反射と歩行ナビゲーション(HangerON,HangerDrive)

この記事は,Haptics Advent Calendar 2019 8日目の記事です.

https://adventar.org/calendars/4151

昨日はkn1chtさんの風覚ディスプレイに関する記事でした.頬に風を当てるとストレスの上昇が抑えられるのは興味深いですね

 

本記事では,触覚錯覚現象の1つであるハンガー反射とアプリケーションとしてのナビゲーションについてざっくり紹介します.

自己紹介

ぐーぺんといいます.

https://twitter.com/gu_pen

電気通信大学のD2で主にハンガー反射とインタラクションの研究をしています.

http://kaji-lab.jp/ja/index.php?kon

学振落ちたので,新卒で社会人ドクターはじめて,この間まで異能vationやってました.あと最近転職しました. 

ハンガー反射

針金ハンガーを頭に被ると意図せず頭が回ってしまう触覚の錯覚現象です.

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https://www.uec.ac.jp/research/information/opal-ring/0005200.html

 

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ここでは詳細については省きますが,ざっくり頭の特定の2箇所を上手く押してあげると頭が回る現象です.詳細を知りたい方は下記の論文を眺めると入り口としては良いと思います.

J-STAGE Articles - ハンガー反射 : 頭部圧迫による頭部回旋反応の条件特定と再現 https://doi.org/10.18974/tvrsj.19.2_295

 

 

今回の話に関連するハンガー反射の特徴は

・身体が実際に大きく動くこと

・動いた時に自分で動かしているのにも関わらず他人に動かされているかのような感じがすること

・ハンガー反射自体に抗うことが容易であること

・身体を圧迫するというシンプルな手法で生起すること

の4点がピックアップされます

 

どうやってハンガー反射を制御するのか

ハンガー反射を得るために針金ハンガーを頭に被っていたのでは,右から左に向く方向を変えたい時に,毎回針金ハンガーをかぶり直す必要があります.また,身体が回る大きさを変化させたい時に調整することがまあ難しいです.

ハンガー反射の歴史も10年以上の歴史があるので過去色々な方法でハンガー反射を制御する試みがされていますが,私が採用している制御手法は,4個の空気圧アクチュエータ(balloon)を個別に制御することで,左右を出すために必要な圧迫位置を動的に切り替え,かつballoon内気圧を調整することで身体が回る大きさを調整するという手法です.

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www.youtube.com



なんでハンガー反射で歩行ナビゲーションをするのか

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例えばスマートフォンで地図情報を見ながら歩くとそれは歩きスマホと呼ばれる状態になります.ユーザは視覚を使ってナビゲーション情報を取得・解釈することで歩く方向を決定しています.画面に情報を提示しなければ歩きスマホにはなりませんが,取得したナビゲーション情報を解釈するための認知的負荷は大なり小なり残ります.ユーザの認知的リソースを安全や観光などに可能な限り振るためには,情報を解釈する事自体を無くすことが手法の1つとして考えられます.例えば,身体を直接動かせる筋電気刺激や前庭電気刺激等を用いた手法が既に提案されていますが,今回はハンガー反射で身体の左右に回旋させることで歩行方向を直接変化させます.

 

ハンガー反射は身体複数箇所で生起しますが,どこの身体部位が最も歩行を曲げるのか?というのも調査してたりします

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ここではざっくりしか書いてないので,背景やハンガー反射と歩行ナビゲーションに関する詳細は下記をどうぞ

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/21/4/21_565/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/22/3/22_335/_pdf

https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3084833&dl=ACM&coll=DL

HangerON:人間ラジコン,人間自動運転の試み

これはM2の時にSIGGRAPH 2017 E-techおよびDCEXPO Innovative Technologiesで発表・展示したプロジェクトです.

腰に装着したハンガー反射デバイスにより,ユーザの体幹部を左右に回旋させることでユーザの歩く方向を操作するという研究です.人間の歩行をラジコンみたいに操作できます.

イメージとしては,GoogleMapに目的地を入力したら後は勝手に位置情報とハンガー反射が連動して,ユーザの身体を左右に回旋させることで目的地に連れて行ってくれるような歩行ナビゲーション用途を考えています.

 

HangerDrive:SegwayDriftをラジコン化,自動運転の試み

これは先月開催されたSIGGRAPH ASIA 2019 E-techで発表・展示したプロジェクトです.Best Demo Voted by Attendees (Honorable Mentions)でした.

https://sa2019.siggraph.org/attend/award-winners

Segway Driftのようなself-transporterに乗っているユーザに対して,self-transporterの操縦に使う重心の変化や姿勢の変化を,ハンガー反射を用いてユーザの体幹部を左右に回旋運動させることで,間接的にself-transporterを操作する提案です.

今年の2月か3月くらいに後輩の

コバヤシマサト (@kobax_km7) | Twitter

くんからHangerDriveの相談を受けてスタートしました.既にHangerONがあったため実現可能性はすぐに確認できましたが,機材が古かったこと,そしてHangerDrive用にアップデートする必要のある部分もあったため,異能vationで開発していたソフトウェアとハードウェア等を追加しつつ,実質的に1から全部作ることになりました.

今回,特に空気圧制御関連で予想しなかった技術的なアップデートが生まれたこと,そしてそれが共著者の後輩二人から生まれたことは本当に大きな貢献でした.

Segway Driftが使用できる場所の制限や展示運営コストからホイホイ展示ができる状態では無いのですが,機会を見てデモ展示していきたいなーとは思ってます

 

 

 

おわりに

HangerDriveでハンガー反射ユニットを8基製作したので共同研究や展示などのお話待ってます.ナビゲーション以外のアプリケーションや,腰以外のハンガー反射の可能性等でも問題ありません.

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HangerON→HangerDriveと,腰のハンガー反射×ナビゲーションの研究について紹介しましたが,現在の研究テーマは頭のハンガー反射×VRです.興味のある方は下記動画を見ていただけると概要がわかるかもしれません(2年前の動画ですが)